カーボンナノチューブ製宇宙エレベーター建造のエネルギー

直径1mの円柱状ケーブルを持つ宇宙エレベーターに必要な炭素の量は1.8億トンにもなったが、その炭素を加工するのにはどれぐらいのエネルギーが必要だろうか?


C型小惑星に含まれる炭素は、炭酸塩として存在している。炭酸塩からカーボンナノチューブを作る際のエンタルピーを見積もってみよう。
ダイヤモンドとグラファイトの生成エンタルピーでも2kJ/molも違わないので、カーボンナノチューブの生成エンタルピーはグラファイトと等しいと仮定*1
炭酸塩に関しては、C型小惑星は原始的な天体だそうなので、対イオンはリチウムイオンやベリリウムイオンだろうけど、ネットでさっと調べてでてきた生成エンタルピーがカルシウムのしかなかったのでこれを使う。

化合物  CaCO_3  CaO
生成エンタルピー  -1206.9kJ/mol  -635.6kJ/mol

 CaCO_3=C(カーボンナノチューブ) +CaO+O_2  \Delta H=+571.30kJ/mol


他の炭酸塩の事はわからないので、炭酸塩からカーボンナノチューブへの生成エンタルピーは  \Delta H=+500kJ/molとしておこう。


直径1mのケーブルの宇宙エレベーターに必要なエネルギーEは、炭素原子の原子量m_c=12なので、


E=\frac{1}{m_c}\pi r^2 h\rho \Delta H=7.4\times10^{18}J


にも上る。世界で一年間に消費される全エネルギー(飯とか薪とかも含む)の2〜3%ぐらい。



計画上は13年で10万km作り上げるので、一日あたりに必要なエネルギーE_{day}


E_{day}=1.5\times10^{15}J


となる。


このエネルギーを太陽電池による発電でまかなうとすると、太陽電池の効率はe=0.2程度で、地球の近くだと単位面積あたりの太陽光の仕事率はP=1000Wm^{-2}程度。
地球の陰に入るのは無視して24時間発電できるとすると、必要な太陽電池の面積は
\frac{E_{day}}{eP\times24\times60\times60}=9.0\times10^{7}m^2
となり、これは約9km四方の太陽電池が必要ということを示している。

以上の話は単に熱力学的な収支の大まかな見積もりであって、実際には、反応を進めるにはより多くのエネルギーが必要だし、精製するためのエネルギーも必要だし、さらに、ケーブルに整形するのにもエネルギーが必要。
静止衛星上の9km四方の構造物なら、地球から肉眼で見えそうなのに、もっと大きな太陽電池が必要なんだから、明るくても見えちゃうかも。

*1:sp3結合の単体とsp2結合の単体より、sp2結合単体とsp2結合単体の方が生成エンタルピー差は小さいと思う。