蔡倫が紙を皇帝に献上したのが西暦105年なので、今年は1900周年。紙はそれまでの媒体に比べ、保存性、軽量、嵩張らない、量産の可能性があるという利点がありますね。保存性以外は紙にかなり近いパピルスもありましたが、連続製造が可能かどうか、印刷にむいているかという点では紙には太刀打ちできないでしょう。今使われている紙のほとんどは洋紙で、これは日本では1870年頃から使われ始めました。連続製紙技術、木材パルプ利用技術によって紙の大量生産が可能になった洋紙は印刷技術とともに、情報の伝播速度の向上に大きな影響を与えました。

紙の大量消費を森林破壊の原因のひとつと捕らえて、IT革命によるペーパーレス化ということが言われていますが、記録と表示を一度にでき、文字も絵も分け隔てなく記録でき、高精細であるという紙の性質を考えると、そう簡単には紙を完全になくすことはできません。官公庁や会社では、ペーパーレス化に向けてがんばっているところがありますが、A4タブレット一体型薄型モニタ(〜1200dpi)が、低消費電力かつ安価で供給されるようになるまでは、紙は通常記録/表示媒体として広く残りそうですな。さらに、契約などは、人間のアクセス可能な範囲で物理的に残していくと思うので、特殊な記録媒体としては残るし、素材としても優れているから、これらの用途において紙はずっと残るでしょうね。

陳舜臣のペーパーロードという本によると、紙そのものはそれ以前にもあったけれど(紙という漢字がそれ以前から使われていたことは確からしい)、量産化もしくは品質の著しい向上が蔡倫によってなされたと考えたほうが自然なのだそうだ。絹の交易が行われていたにもかかわらず、中東・北アフリカ・ヨーロッパには600〜1000年遅れで紙が伝わったらしい。日本に伝わったのが610年だということを考えると、ずいぶん遅い感じがする。この遅さの理由や、小麦・石臼・粉食文化もからめて、ユーラシア大陸の東西の交流・戦争ことも書いてあるので、面白い本です。

紙の道(ペーパーロード) (集英社文庫)

紙の道(ペーパーロード) (集英社文庫)

本の表紙のらくだの折り紙を見てたらこれを思い出した。

オリガミ・スピリッツ
妄想は、次元を超えますな・・・。

関連

紙の博物館
http://www.papermuseum.jp/
印刷博物館 / Printing Museum, Tokyo
http://www.printing-museum.org/

    • 紙以前の記録媒体
  • インド:石・貝多羅(ヤシの一種の葉)
  • メソポタミア:粘土板
  • ヨーロッパ:羊皮紙
  • 中国:絹布・甲骨・木簡・竹簡
  • エジプト:パピルス
  • 中南米:アマテ(イチジクの一種の葉)